解析事例

間隙水圧を考慮した粒子-流体連成スキームの適用事例 -船舶動揺時の鉄鉱粉貨物挙動解析-

1. はじめに

「間隙水圧を考慮した粒子-流体連成スキーム」では,スキームの特徴とその解析事例として,「土石流シミュレーション」と「液状化シミュレーション」について説明しています.ここでは,そのスキームを使ったさらなる解析事例として,「船舶動揺時の鉄鉱粉貨物挙動解析」を示します.

船舶が鉄鉱粉などの金属鉱物資源を運搬・輸送するときに,ロール運動などの船舶の動揺により,積載された鉄鉱粉貨物が相対運動を起こし,積み荷の重心位置がずれて不安定となり転覆などの海難事故を引き起こす危険性があります.鉄鉱紛貨物は,水分を含んだ状態で積み込まれるため,船舶の動揺により液状化を起こしたり,動的分離といって貨物中の水分が表層部に液体スラリーとして形成され,積み荷が動きやすくなり荷姿が不安定な状態になってしまうのです.

この鉄鉱紛貨物の液状化あるいは動的分離の発生条件や発生後の流動状態を把握することを目的に,間隙水圧を考慮した粒子-流体連成スキームを使ってシミュレーションします.

2. シミュレーション

図-1に解析モデルを示します.解析モデルは,バルクキャリアの船倉断面(壁要素で構成)を模擬しています.船倉の面積中心まで,鉄鉱粉を模擬する粒子群(粒子数:22,509, 平均粒子径:150mm, ±20%の均一粒度分布)を充填します.船体動揺中の混錬状態を観察するために,鉄鉱粉堆積層は4層に色分けされています.間隙の領域(3つの粒子の面積中心を結んでできる3角形)には,飽和状態の流体格子群(流体格子数:44,968)が生成されます.流体格子は,堆積層内に生成される一般の流体格子と,自由表面と壁と粒子の境界に接する部分に形成される仮想の流体格子とからなります.自由表面に生成される仮想の流体格子は,その流体格子への流れを許可する排水条件,また壁に接した部分に生成される流体格子は,その流体格子への流れを禁止する非排水条件としています.また,船体の中央部と左側に測定領域を堆積層の深さ方向(5点)に設置して,有効応力,間隙水圧,粒子群の速度を追跡します.動揺条件は船体のロール運動を模擬し,船体断面を左右に一定の周期と振幅で回転させます.回転角度,周期,サイクル数は,それぞれ,±20度,15s,20サイクルです.解析の時間刻みは0.25msとし,解析に必要な諸量を0.5sごとに記録します.

図-1 解析モデル2)

図-2に,19サイクル時の解析結果(左:粒子群,中:接触力,右:過剰間隙水圧)を示します.とくに粒子層上部の粒子群の運動で,粒子層表面の形状や傾斜が,船体貨物倉模型の動揺とともに変化します.この場合,19周期目のはじめには,直前の動揺で右側に多く粒子群が堆積していましたが,その後の左側へ傾斜する動揺で,半周期後には左側に多く粒子群が堆積します.接触力は,貨物倉模型底部で大きな値を示します.過剰間隙水圧は動揺により変化していますが,間隙率が小さくなる船体貨物倉模型底部でとくに大きくなり,動揺によってその分布が左右に変動しています.

図-2 解析結果: 動揺中の状況2)

図-3に,船体中央部の測定領域(深さ方向5点, 表面よりC1, C2, C3, C4, C5)における過剰間隙水圧,有効応力,間隙率の時間変化を,動揺条件と共に示します.どの測定領域でも,動揺が始まると,過剰間隙水圧が発生し,有効応力が減少しています.深さ方向に見てみると,深いほど発生する過剰間隙水圧は大きくなりますが,初期の有効上載圧に対する過剰間隙水圧の割合は,表層部ほど大きくなります.シミュレーションでは,深さ10mの位置で約40%ですが,深さ2.5mの位置では約70%にも達します.また表層部の間隙率は動揺開始とともに大きくなり,堆積層がゆるみ,動きやすい状態になっているのがわかります.

図-3 解析結果:過剰間隙水圧,有効応力,間隙率の時間変化2)

 参考文献

1). 清水 他,間隙水圧を考慮した粒子-流体連成スキームを組み込んだ個別要素法による船舶動揺時の鉄鉱紛貨物挙動解析,日本船舶海洋工学会論文集, Vol.35, pp.87-98, (2022).

2). Shimizu, Y. et al., Numerical Simulations on Liquefaction of Iron Ore Funes under Roll Motion of Bulk Carriers Using Fluid Coupling Scheme in DEM, Vol. 32, No. 3, pp.296-306, (2022).