解析事例

多要素粘弾性接触モデル

1. はじめに

粘弾性特性をあらわすことができる新しい接触モデル「多要素粘弾性接触モデル」を開発し,個別要素法(DEM)に組み込みました.開発された接触モデルは,図-1に示すとおり,ひとつのMaxwell要素と複数のKelvin要素が直列に接続されます.この接触モデルは,要素間の個々の接触点でその特性をあらわすことができるので,流動状態の局所化を再現することができ,さらに要素の集合体としての全体(材料)を,時間依存性のある粘弾性特性としてあらわすことが可能となります.


図-1 多要素粘弾性接触モデル:垂直方向(せん断方向も同様

2. 応力緩和・クリープ特性

この接触モデルを検証するために,ふたつの要素による簡単な解析モデル(図-2)を作り,応力緩和とクリープシミュレーションを実施しました.応力緩和シミュレーションは,図-2の解析モデルに示すとおり,2つの粒子をお互いに貫入させてその位置を保持しながら,そのときの接触力の時間変化を追跡しました.図-3にその結果を示します.図中のβは,Maxwell要素とKelvin要素のパラメータの大きさの比を示していますが,βが大きい(Maxwell 要素の値が大きい)ほど,計算結果は,Maxwell要素の解析解に近づいています.また,クリープ特性シミュレーションでは,初期の力が維持されるように,2つの粒子の変位(垂直方向の場合には貫入量)をコントロールし,この変位量の時間変化を追跡しました.図-4に結果(図中の実線は解析解)を示しますが,計算結果は,解析解と良く一致しました.


図-2 2要素(粒子)系による解析モデル


図-3 2要素(粒子)系による応力緩和シミュレーション結果:垂直方向)


図-4 2要素(粒子)系によるクリープシミュレーション結果:垂直方向)

3. マーガリン類のクリープ試験シミュレーション

マーガリン類のクリープ試験(図-5)を模擬したシミュレーション(図-6)を実施し,実験結果と比較しました.図-7に示すとおり,多要素粘弾性接触モデルは,マーガリン類のクリープ特性をよくあらわすことができた.


図-5 マーガリン類のクリープ試験装置1)


図-6 マーガリン類のクリープ試験シミュレーション解析モデル)


図-7 マーガリン類のクリープ試験シミュレーション結果 (印:計算,実線:実験)

4. 製造機械への適用

マーガリン類の製造工程で,結晶構造の均一性や充填性の改善のために使用される混練ユニット内のマーガリン類の動的な挙動を再現するシミュレーションを行いました.図-8に解析モデルを示します.混練ユニットを円筒形の壁で構成し,ケーシングに相当する外円筒と回転軸に相当する内円筒の間に,多要素粘弾性接触モデルが組み込まれる球形粒子群を幅16mmの間に配置します.その両方の境界には周期境界を設置し,あたかも混練ユニット内に粒子群が充填されている状態を作ります.この状態で,回転軸と回転軸についた混練翼を所定の回転数で回転させながら,さらに,壁全体を回転軸の方向に一定の速度で移動させることにより,粒子群は,回転翼により混練されながら,回転軸の方向へ搬送される状態を模擬できます.図-9に,計算結果を示します.また,図-10に,初期に配置された粒子群の混練状態の時間変化を示します.マーガリン類の粘弾性特性や運転条件が異なると,混練ユニット内のマーガリン類の混練度が変わり,製造プロセスの改善や機械装置の性能向上をはかるための情報が得られました.


図-8 マーガリン類の混練ユニット内挙動シミュレーション解析モデル


図-9 マーガリン類の混練ユニット内挙動シミュレーション結果


図-10 混練度の時間変化(初期に配置された粒子群の移動の状況)

参考文献

1) 清水 他,個別要素法に組み込まれる多要素粘弾性接触モデルの開発 - マーガリン類の製造工程シミュレーションへの適用 -,日本レオロジー学会誌,Vol. 40, No.5, pp257-266, (2012).